王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~
「珍しいな。隊長がギルの槍を避けられないなんて」
「本当だな、あいつはあいつで半泣きだったけど大丈夫かな」
騎士たちの会話にギルの名前を聞いて、エマは慌ててふたりを追いかける。
「ちょっと待ってください。ギルって。……セオドア様と戦っていたのはギルだったの?」
「あ、グリーンリーフのエマちゃんじゃん。そうだよ。たまには稽古つけてやるって言って、セオドア様が」
「ギルのやつ、セオドア様を尊敬してるからな。怪我させたのショックだったんだろうな」
「ギルはどこに?」
「今、中に入っていったじゃないか」
エマは一瞬息を止めた。
中に入っていった騎士の顔は全部見た。その中にエマの知るギルはいなかった。
「ギルが? 本当に?」
「ああ、ギルネス。ギルネス=ハーバーのことだろ?」
違う。
エマの知っているギルではないのだ。
ホッとして、でもじゃああのギルはどこにいるのか、心配にもなる。
「ほかに、騎士団にギルという名前の方はいますか?」
エマの問いかけに、男は目をぱちくりとした。
「いや、第二分隊にはいないよ? 第一分隊にもいなかった気がするけど、新人が入っていたなら分からないな」
「そうですか。ありがとう」
エマは見送り、疑問に思った。
セオドアとギルは仲がいい。エマはてっきり同じ分隊にいるのだと思っていた。だけど、バームもギルの姿を見ていないというし、エマもたまに窓から覗くがギルが訓練しているところを見たことがない。