王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~
「……きっと、目立たない新入りさんとかなのよね」
でも、そんな人がセオドアを呼び捨てに出来るだろうか。
彼は第二分隊の隊長だ。
いくら人柄が気さくだといっても、自分より若い新人があんな態度を取れば、叱るのが普通じゃないだろうか。
考え出せば疑問はいくつも出てくる。
来てくれるのが嬉しくて、考えないようにしていたけれど、ギルが毎日午後にグリーンリーフに来られるのもおかしなことなのだ。騎士団の訓練は通常夕方まで行われるのだから。
小さな不安がエマの中で芽吹く。けれど、頭を振って追い払った。
彼が誰であるかは、薬屋としてのエマには関係ない。
薬屋にハーブティを飲みたくてやってくるお客様。金払いもいい。問題はないはずだ。
“あなたは何者なの?”
そんな疑問を投げかけたら、ギルはもう来てくれなくなるかもしれない。
背筋がぞっとするような感覚に襲われて、エマは自分の体を抱きしめる。
「……そう、彼はお客様。余計な情報はいらないのよ」
エマは半ば無理やりに疑問を押し込めた。