王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~



エマがお店を閉めてから、こっそりとやって来たのはセオドアだった。


「セオドア様! 大丈夫なんですか? お怪我は?」

「やあエマ。もう仕事終わりなのに悪いんだが、痛み止めを貰えないか? 医師の薬は全然効かなくて困っているんだ」


セオドアは後ろの扉を気にしながらこっそりと言う。
エマの薬を毛嫌いしている医者には内緒なのだろう。


「まあ。……でも、飲み過ぎになるといけませんから、お医者様の薬がどんなのだったか教えてもらえますか?」


セオドアは処方されている粉薬をエマに見せる。エマは確認し、セオドアを中に招き入れた。


「これを飲んでいらっしゃるのなら、一滴でも多すぎるかな。……量の微調整が難しいので、お茶でお出しします。どうぞ」

「ああ、悪いな」


セオドアの肩に包帯が巻かれているのが服の上からも分かった。槍での怪我だということだが範囲は広そうだ。


「お怪我なさるなんて珍しいですね」

「ああ、少しぼうっとしていてな」


エマはお茶をいれ、痛み止めの薬をスプーンを伝わせるようにしてほんの少しだけ入れてかき混ぜた。


(セオドア様なら、ギルが本当は騎士団員じゃないかどうかも知っているはず……)


エマは迷っていた。彼の本当のことが知りたい。でも知ることもまた怖い。
もし、ギルが騎士団員じゃなかったら? それを知ってしまったら、今までのようにはできなくなるんじゃないだろうか。
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