王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~
心を決められないままセオドアの前にお茶を置き、彼の顔を伺うと、彼のほうも何か言いたげにもごもごと口を開いた。
「……ヴァレリア殿がな」
「え?」
「王太子様の妃候補となったんだ」
「ええ。聞いています」
セオドアは俯いたまま「そうか」とつぶやき、エマの目にも明らかに肩を落とした。
「……めでたいことのはずなんだ。ヴァレリア殿は騎士団の中でもまるで妖精の姫のようだと言われるくらい清楚で気品があって人気で……。彼女が王太子妃になることをみんなは望んでいる。もう一人の候補であるシャーリーン殿よりも家の格もいい。……なのに」
セオドアは頭をぐしゃぐしゃとかき回し、動かした肩の痛みに顔をしかめる。
「俺は喜べない。それどころか、そのことで頭がいっぱいでこんな怪我まで」
「セオドア様。……ヴァレリア様がお好きなんですね?」
「……情けない話だ。元々手に届くような人でもないのに、ちょっと話しただけで俺は彼女の魅力にあっという間にとらわれてしまった。……すまんなエマ。君に愚痴っても仕方ないのに」
「構いませんよ。話してお心が楽になるならいくらでも」
「ありがとう。……彼女が王子のものになると思うだけで、こんなふうにダメになるんでは、隊長も失格だ」
セオドアの落ち込みは本格的だ。
彼女もあなたを想っています、と言いたくなったがエマは必死にこらえる。