素直になれない、金曜日

ちょうど同じくらいのタイミングで砂川くんも彼の分の作業を終えたみたいだったから、「おつかれさま」と笑顔を向けると。




「桜庭さんって、甘いもの好き?」

「へっ?」



歩み寄ってきた砂川くんが、突然私に問いかけた。



「いいから答えて」

「好き、だけど……」




戸惑いながらも答えると、砂川くんが一歩私に近づいた。

距離が、近い。



早まる心臓の音が聞こえてしまうんじゃないかと心配になる。




「口開けて」





下された予想もしなかった命令に頭の中は疑問でいっぱいになったけれど、有無を言わさない様子でじっと見つめられて。

訳がわからないまま口を少し開けば。




「───むぐっ、」



突然なにかが口の中に押し込まれた。

条件反射のように咀嚼すれば、ふんわりとした甘さが口の中に広がっていく。




「おいしい……!」




思ったことが素直に口から零れ落ちた。




ふわふわの口当たり。

卵と砂糖が主の、素朴だけど飽きのこない味。




「シフォンケーキ……?」

「そう、正解」




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