素直になれない、金曜日
砂川くんの言葉が上手く理解できない私に、彼は少し諦めたようだった。
黙り込んだあと、砂川くんはゆっくりと口を開く。
「これ……ありがとう」
私が持ってきたトレイをちらりと見て言う。
「ううん」
私が首を横に振ると、砂川くんはふ、と口角を持ち上げて。
それから瞼を軽く伏せて、口を開いた。
「俺のことは気にしないでいいから、桜庭さんは戻りなよ」
「え……?」
「俺は、大丈夫だから。無理してここにいなくてもいい」
いつもと、声色がどこか違う。
砂川くんはいつだって真っ直ぐな言葉をくれるのに────今はなんだか控えめ、というか回りくどい、というか。
これが本心じゃないような気がした。
「無理なんかじゃ……っ、それに 砂川くん全然大丈夫なんかじゃな、」
首を横に振りつつ抗議すると、砂川くんが瞼を上げて、私と目を合わせた。
熱っぽく揺れた瞳が私の瞳を捕らえて離さない。
「ごめん、なんか……今日はだめなんだ」
「え?」
「……桜庭さんが近くにいると、調子狂う」
頭が上手く回らなくなって、
「くらくらして、余計熱あがりそうで」
そう言われてみれば、この部屋に来たときより砂川くんの肌が熱に染まっているような気がした。