素直になれない、金曜日


「……ほんと、調子狂うな」




小さく呟いた砂川くんの声は上手く聞き取れなくて、瞬きを繰り返すと。




「桜庭さんには敵わないな、っていうこっちの話」




その意味は、よくわからなかったけれど、砂川くんが柔らかな笑みを浮かべていたから悪い意味ではなさそう。



「ほんと駄目だ。カッコつけたいのに、桜庭さんの前だと全然格好つかない」



小さく呟いて、自嘲気味にわらって。




「じゃあ、今日は桜庭さんの手を借りようかな」




そう言って、伏し目がちになった砂川くんが前傾姿勢になって私の方へぐい、と顔を近づける。




「ん、食わせて」




どき、と心臓が震えて思わずスプーンを取り落としそうになった。

慌てて指先に力を入れる。



───これじゃあ、私も砂川くんと同じだ。




でも、だって、その、距離が近い。

目と鼻の先にある砂川くんの顔。やっぱり整っているなあ、なんて思うけれど あんまりまじまじ見つめるのもよくない。


視線を少し彷徨わせて、それから砂川くんの口にスプーンを近づけた。




その光景に、どこか既視感を覚えて。


どうしてだろう、と記憶を辿っていると砂川くんと隣町まで買い出しに行ったときのことを思い出した。



ふたりでカフェに入ったときに、砂川くんがこうやってホットケーキを分けてくれたんだっけ。


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