素直になれない、金曜日
唐突に質問を投げかけられて、面食らう。
ぱちぱちと瞬きを繰り返す私に、砂川くんがもう一度ゆっくり尋ねた。
「あんたの名前は?」
「えっと……私、は桜庭─────桜庭 ひより、です」
「そっか」
思ったよりも素っ気ない返事に落胆したのは、ほんの一瞬。
「桜庭さん、これからよろしく」
そう言って、ぎこちなく口角をあげた砂川くん。
『桜庭さん』
彼が紡ぐ私の名前は、特別に聞こえた。
自分の名前なのに、初めて聞いたような感覚。
それはまるで、
ざわざわと心を撫でる、春風のようで。
浮つく心のままに顔を上げると、砂川くんの視線はまっすぐこちらに向けられていた。
しっかりと目が合って、妙に照れくさくなる。
「……そういえば、桜庭さんって────」