素直になれない、金曜日
こういうとき、何と声を掛けるのが正解なのかがわからない。
元々、人と話すことは得意じゃないし、ましてや男の子と話す機会なんて今までないに等しかったから。
正解を探してもごもごする私に、きょとんとしたままの砂川くんが問いかけた。
「深見先輩と知り合い?」
深見────恭ちゃんのことだ。
恭ちゃんは、私たちよりひとつ年上の先輩なの。
驚いたのは、砂川くんの口からすんなりと恭ちゃんの苗字が出てきたこと。
あまり接点がないはずの砂川くんでも名前を知っているなんて、ひょっとすると恭ちゃんって有名人なの?
私にはあんまりぴんと来ないけれど。
「えっと……恭ちゃんは知り合いっていうより」
砂川くんにちゃんと返答しようとした、のに。
「ひよりー、早くしないと置いてくぞ」
「えっ、ちょっ、恭ちゃん待って!」
慌てて鞄を掴んで、恭ちゃんに駆け寄る。
砂川くんには申し訳ないけれど、こういうときの恭ちゃんは容赦なく私を置いてきぼりにするんだから。
「ごめんなさいっ、また今度……!」
ひとり取り残された砂川くんにぺこりと頭を下げて、早速歩きはじめている恭ちゃんに早足で追いついた。
恭ちゃんはもともと足が速いくせに、その上長身だからリーチも私とは比べものにならない。
それなのに、歩幅を合わせてくれる、なんてこともなくて。
もうちょっと気を使ってくれたっていいのに、と思う。