素直になれない、金曜日
心の中で溜息をつきながら、一足先に昇降口に着いていた恭ちゃん、こと深見 恭介をちらりと見上げた。
すると、ちょうど目が合って。
恭ちゃんがふっ、と笑った。
その目は揶揄いの色を帯びている。
「相変わらずひよりはとろいな」
「っ、とろくないよ!恭ちゃんがさっさと行っちゃうだけでしょ」
「いーや。昔からひよりは歩くの遅いし、付け加えて鈍臭い」
う……それは重々承知していますとも。
それに、私よりも私のことをよく知っている恭ちゃんが言うのなら、そういうことなんだと思う。
拗ねて頬を膨らませた私を、恭ちゃんはやっぱり面白そうに見つめてくるから。
こちらとしては面白くないわけで、不貞腐れながらローファーに履き替えた。
そして、恭ちゃんとふたり並んで校門を出る。
そういえば、恭ちゃんと会うのは久しぶりかもしれない。
去年は私が受験生だったからゆっくり顔を合わせる機会もなく、入学してからもずっとバタバタしていたから。
何となく懐かしいなあ、と思いながら歩いていると、ふと恭ちゃんが口を開いた。
「当番。砂川駿と一緒だったじゃん?」
「あ……あれは、ぼやぼやしているうちに二人して余っちゃっただけで」
仕方なく、と言いかけてそれは呑み込んだ。
だって、わたし、“仕方なく” なんて1ミリも思っていないもの。
むしろ─────……
「は、ひよりは本当に相変わらずだな」
「ひとはそんな簡単には変わらないよ」
相変わらずだと笑う恭ちゃんを一蹴する。
それより。
「恭ちゃん、砂川くんのこと知ってるの?」