素直になれない、金曜日
そちらのほうが気になった。
砂川くんも恭ちゃんのことを知っているみたいだったし、ふたりってもしかして知り合いなのかな、なんて思っていると。
「は?おまえ、何も知らねえの?」
「何も、って……?」
恭ちゃんが嘘だろ、とでも言いたげに目を見開いたけれど、私には何のことかさっぱりわからない。
「無口の王子様」
「……?」
急に恭ちゃんの口から発せられた言葉。
聞き覚えがなくて首を傾げる。
「って、聞いたことない?」
「え?なにそれ……」
「はー、さっすがひより」
『さすが』と言われたものの、全然褒められている気がしない。
というか、実際褒められてはいないのだろう。
「あいつ、結構有名なんだよ」
「砂川くんが?」
「2組の砂川駿。見た通りルックスがいいし、頭も良くて、ついでに運動神経もいいんだと。そんなだから女が放っておくはずがない」
……砂川くんって、2組だったんだ。
どうりでなかなか会えなかったわけだ。
10組まである一年生のクラスの、1から5組の教室は新校舎、6から10組は旧校舎に位置している。
砂川くんのいる2組は新校舎で、私は7組だから旧校舎。
私が砂川くんのことを見たことがなかったのも、なかなか会えなかったのにも納得がいく。