素直になれない、金曜日
足早に教室を立ち去った先生の後ろ姿を恨めしく思いながら、渋々立ち上がった。
業間の休み時間は短い。
はやく行かなきゃ次の授業に間に合わない。
重い資料をよいしょ、と持ち上げて教室を出ようとした瞬間、抑揚のない冷めた声が私に降り注いだ。
「馬ッ鹿じゃないの」
「……っ」
思わずぴたり、と足が止まる。
その声の持ち主は榎木さんだった。
「なんで “嫌” って言わないの?」
榎木さんがちらりと私が抱えた資料を一瞥したから、先生の頼み事のことだと察する。
「言いたいことあるんだったらハッキリ言えばいいのに」
「あんたを見てるとむかつくの」
いつも明るい榎木さんからは考えられないような、冷たい声色。
びくり、と肩が震える。
それを制するかのように榎木さんが小さく舌打ちした。
「口では何も言わないくせに、陰では面倒だとか嫌だとか思ってるんでしょ」
図星をさされて、ごくりと唾を呑む。