素直になれない、金曜日

「そうやって表立っては良い顔するくせに、ほんとうは何考えてるかわからないような奴が、……あんたみたいな奴が」




榎木さんがいつもはニコニコと可愛らしい笑顔を浮かべているその顔を歪めて。


私のことを思いっきり睨んでトゲトゲしく放つ。




「私はいちばん嫌いなの」




彼女の言葉がぐさり、と棘のように刺さった。

ハッとして榎木さんを見上げれば、彼女はもうこちらを見てはいなかった。




ふと視線の先の教室の窓ガラスに自分の姿がうつっていることに気づいて、榎木さんの後ろ姿と自分の虚像とを見比べる。




はっきりとした華やかな顔立ちで、どこにいても目立つ、存在感のある榎木さん。



窓にうつるのは昔から色素が薄いと言われる、白い肌と亜麻色に近い髪の毛の私。


透明感がある、なんて言えば良いように聞こえるけれど、要は存在感が薄いということ。




私の存在なんて透明人間と紙一重なんだ。

わたしは榎木さんには、なれない。





背中を向けた榎木さんに何かを言うこともできず、走るように教室を出て───要するに、逃げた。




“嫌い” 。

そう言われて傷つくなんて
彼女の言う通り私は馬鹿だ。




だって、自分でも自分が嫌いなのに。




そんな自分のことを嫌わないでほしい、なんて虫が良すぎる話なわけで。


矛盾だらけの自分に苦笑しながら、次の授業に遅れないように足を早めた。





────ずきずきと痛む心はできるだけ見ないようにして。






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