淡雪
 次の日、奈緒は稲荷神社へ急いだ。
 黒坂と話したのは二度ともあの稲荷神社だ。

 単なる偶然だろうし、奈緒も明確な用事があるわけでもない。
 たまたま危ないところを助けて貰っただけで、素性も怪しいような浪人など、本来近付くべきでないのはわかっている。

 が、何故か気になる。

 昨日良太郎といるところを見られた、ということがやたらと気になり、いてもたってもいられず、この稲荷神社に足を運んでしまった。
 冷たい風が吹き抜ける境内には、人影はない。

「……そんないつもいつも、いるわけないか……」

 考えてみれば、ここで会ったのはどちらも夕暮れ時だ。
 今はまだ昼過ぎ。
 黒坂だってまさかここに住んでいるわけではないのだろうから、いつでも来れば会えるわけではないだろう。

 そう考え、奈緒は赤くなった。
 これではまるで、奈緒が黒坂に会いたがっているようではないか。

「そんなことはない。ただ、昨日のことを聞きたいだけ」

 声に出し、頭を振って否定する。
 だが聞いてどうするのか。
 そもそも何を聞きたいのか。

 奈緒が良太郎といるところを見て、黒坂がどう思ったかなど、別に気にすることではない。
 ぐるぐる考える奈緒の足元を、冷たい風が、ぴゅうっと吹き抜けていった。
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