淡雪
結局稲荷神社で黒坂に会うこともなく、とぼとぼと家に帰ると、客間に良太郎の姿があった。
それだけでなく、良太郎の父である伊田の姿もある。
項垂れる左衛門の前で、良太郎は顔を強張らせており、伊田は苦虫を噛み潰したような表情で座っている。
「大体父上は、強欲すぎます。何にそんなに金がいるのですか」
良太郎が、伊田に向かって言う。
「馬鹿もん。出世のためには金がかかるのじゃ。お前にはまだわからぬだろうがな、地位というのは金で買うものなのだぞ。お前だって奈緒殿の父上が、それなりの地位にいたほうが良かろう」
「私は実家がどうであろうと、奈緒殿を想う気持ちに変わりはありませぬ」
「お前も家庭を持てばわかる。奈緒殿を幸せにするにも、己が出世せんといかん。奈緒殿に苦労はかけたくないであろう?」
ぐ、と良太郎が口を噤む。
「だ、だからといって、無理やり金を出させるなど……」
「気にするな。向こうも対談方を出してきた故、仕方なくじゃ。奴らもちょっとは痛い目を見ないといかん」
伊田はあくまで尊大に言う。
良太郎は息をついて頭を振った。
そして、そこで初めて奈緒に気付いた。
慌てて立ち上がり、部屋を出てくる。
「ちょっと、外に出ましょう」
奈緒をつれ、良太郎はそそくさと外に出た。
「あ、あの、良太郎様……」
奈緒が声をかけた途端、くるる、と音がした。
ぴた、と良太郎が足を止め、己の腹を押さえて、照れ臭そうに振り向いた。
「そういえば、昼餉がまだでした。奈緒殿もどこかに行ってらしたのでしょう? 昼餉がまだでしたら、ご一緒しませぬか?」
「あ、そうですね」
二人は連れ立って、少し歩いた先の蕎麦屋に入った。
それだけでなく、良太郎の父である伊田の姿もある。
項垂れる左衛門の前で、良太郎は顔を強張らせており、伊田は苦虫を噛み潰したような表情で座っている。
「大体父上は、強欲すぎます。何にそんなに金がいるのですか」
良太郎が、伊田に向かって言う。
「馬鹿もん。出世のためには金がかかるのじゃ。お前にはまだわからぬだろうがな、地位というのは金で買うものなのだぞ。お前だって奈緒殿の父上が、それなりの地位にいたほうが良かろう」
「私は実家がどうであろうと、奈緒殿を想う気持ちに変わりはありませぬ」
「お前も家庭を持てばわかる。奈緒殿を幸せにするにも、己が出世せんといかん。奈緒殿に苦労はかけたくないであろう?」
ぐ、と良太郎が口を噤む。
「だ、だからといって、無理やり金を出させるなど……」
「気にするな。向こうも対談方を出してきた故、仕方なくじゃ。奴らもちょっとは痛い目を見ないといかん」
伊田はあくまで尊大に言う。
良太郎は息をついて頭を振った。
そして、そこで初めて奈緒に気付いた。
慌てて立ち上がり、部屋を出てくる。
「ちょっと、外に出ましょう」
奈緒をつれ、良太郎はそそくさと外に出た。
「あ、あの、良太郎様……」
奈緒が声をかけた途端、くるる、と音がした。
ぴた、と良太郎が足を止め、己の腹を押さえて、照れ臭そうに振り向いた。
「そういえば、昼餉がまだでした。奈緒殿もどこかに行ってらしたのでしょう? 昼餉がまだでしたら、ご一緒しませぬか?」
「あ、そうですね」
二人は連れ立って、少し歩いた先の蕎麦屋に入った。