淡雪
「全て父が高保殿をけしかけたのですよ。奈緒殿の婚儀のため、とか言ってますけど、実際は持参金を用意できなくなるのを危惧してのことです」

「持参金……」

「持参金という名の賄賂ですよ。高保殿はその金で、父の口利きを得られるわけです」

「そんな……」

 元々この縁組を熱心に勧めたのは父だった。
 上役に、丁度いい息子がいる、と言って、半ば強引に奈緒を良太郎に引き合わせたのだ。

 あのときから、出世の足掛かりを作っていたのか。
 娘と多額の持参金を献上し、今より上の地位を手に入れる。

「賄賂全てがいけないとは言いませんよ。ある程度は必要でしょう。だけど、無理やり毟り取るような父のやり方には賛成できません。奈緒殿を頂けただけでも、私は十分なのに」

「やはり良太郎様もご存じだったんですか。父が、私を出世のために、良太郎様に引き合わせたこと」

「その後の動きで、何となく察してはいました。此度のことで、決定的になりましたが。でも、私からすると奈緒殿と引き合わされたのは幸運でしたよ。そこのところは、高保殿の野心に感謝です」

 少し照れたように、頭を掻きながら言う。
 良太郎は純粋に、心から奈緒を想ってくれている。

「だけど、高保殿が出世を望むのも致し方ないことです。此度の昇進が叶えば、おそらく今までの借金も徐々に返せましょう。ですが、そのためにはまた金が必要、というわけで」

 ふぅ、とため息をつく。
 つまり、『持参金』はどうしても必要なわけだ。

 実際それを手にするのは良太郎の父である伊田だが、それが全て伊田の懐に入るわけではない。
 それがまた、伊田の上役にばら撒かれる。
 そうやって初めて、左衛門の出世の道が拓けるのだ。

 ただそこまでしても、出世は絶対ではない。
 あくまで道筋を作りやすくなるだけで、実際に出世できるかは上の気分次第。
 出世が叶わなかった場合は、また返すあてのない借金が増えるだけだ。

 商人はその辺の匙加減を厳しく見る。
 『次こそ返す』という言葉は腐るほど聞いている。
 『次』が固い人間にしか貸さなくなるのは当然なのだ。
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