淡雪
「父が手配した蔵宿師というのがまた、見るからに浪人崩れで気の荒い奴でしてね。今にも向こうさんを斬りつけかねない雰囲気で、はらはらしましたよ」

「え。もう話し合いに行ったのですか?」

「ええ、さっき帰ってきたところです。私と高保殿が、必死で宥めて大変でした。向こうの対談方も、こちらの蔵宿師を挑発するもんですから、生きた心地がしませんでしたよ」

 どきん、と奈緒の胸がまた、妙な風に跳ね上がった。

「そういう場合、対談方と蔵宿師で喧嘩になったりすることもあるんでしょうか」

「そうですねぇ。まぁ双方荒くれ者でしょうし、そうなってもおかしくないでしょうね。今回は特に、明らかに蔵宿師は対談方に対して敵意を剥きだしてましたし」

「あの、蔵宿師って、どんな方ですか?」

 奈緒の言葉に、良太郎は少し眉を顰めた。
 蔵宿師など所詮は無頼浪人。
 武家の娘が、そのような者に興味を持つものではない。

「あ、いえ、あの。そんな恐ろしい人でも、伊田様が手配してくださった方なのでしょう? 家に来ることもあるかもしれませんし、そのときに失礼なことをしてしまうといけないですし……」

「あ、そうですね。見るからに腕っ節の強そうな、熊のような男でしたよ。一刀流の免許皆伝だとか。まぁああいう手合いは腕っ節が売りですからね、その辺りは本当かどうか……」

「そんなことを偽っても、立ち合えばわかってしまうでしょう?」

「ええ。でもあの者は立ち会わなくても怪しいのはわかりましたよ。あんな簡単に相手の挑発に乗っていては思う壺ですし」

 良太郎も剣はかなり使える。
 幼い頃から道場に通い、目録まで納めた腕前だ。
 だからこそわかるのだろう。
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