淡雪
 奈緒は、そっと立ち上がり、外に出た。
 自然と足は稲荷神社に向かう。

 石段を上がり、境内に入ると、見慣れた古い本殿がある。
 きょろ、と辺りを見回してみると、本堂の奥の木々が拓けているところが目についた。

 何となくそちらに行き、木々の奥を覗いてみる。
 そこからは町の様子が一望できた。

「わぁ、凄い……」

 呟いた途端、足が滑る。
 斜面になっている足元の雪が解けて、緩くなった土が滑ったのだ。

「ひゃっ……!」

「危ねっ」

 いきなり耳元で声がし、がしっと身体を抱きとめられる。
 お陰で泥の上に倒れる羽目にはならなかったが、泥を跳ね上げた足は汚れてしまった。

「何やってるんだ、こんなところで」

 振り返ってみれば、奈緒を抱きとめているのは黒坂だ。
 片手で後方の木を掴み、もう片方の手を奈緒の腰に回している。

「危ねぇなぁ。悪くしたら、下の川まで滑り落ちるぜ」

「く、黒坂様……」

 やっと会えた、という思いが顔に出そうになって、奈緒は慌てた。
 良太郎相手だと、想いは表に出ないのに、何故今自然に顔に出そうになったのだろう。

「全くあんたは、よく一人でふらふらするんだな。年頃のお嬢さんが、こんなところをふらふらするもんじゃねぇ」

 黒坂は奈緒の手を引っ張って、木々の間から抜けた。
 彼の手は固く、剣術を修めたものだと知れる。

「商売人でもあるまいに、よく稲荷神社に詣でるんだな」

 本堂の前で、黒坂はようやく足を止めた。
 同時に奈緒から彼の手が離れる。
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