淡雪
「……へーぇ。黒坂様に、そんな話が」
奈緒は黒坂の中の音羽の陰に激しく動揺したのに、音羽は自分の間夫に縁談がある、と聞いても、大して驚いていないようだ。
それにまた、奈緒は気を悪くする。
音羽のほうは、黒坂を好いていないのではないか?
---こういうところだって知ってるってことは、他にもそういう男がいるんだ。所詮遊女だものね---
そう思うと、自分が優位に立ったように思えて心も落ち着く。
奈緒は武家の女子らしく、姿勢を正して、キッと音羽を睨んだ。
「廓の中でならともかく、こんなところでこそこそ会うようなこと、妻としては許せません」
「残念だけどね、黒坂様と会うことは、やめる気はないよ。もっとも黒坂様に、わっちが捨てられりゃ仕方ないけどね」
どこまでも音羽は悠然と構えている。
折角優位に立ったと思ったのに、所詮小娘でしかない奈緒など、花街の花魁には敵わないのだ。
「……どうして花魁が、そこまで黒坂様に執着するんです。他の人とも、どうせこういうところに来てるんでしょう? 同じようなことを、誰にでも言ってるんじゃないですか?」
じわじわと奈緒の心を蝕む黒い染みが、言葉に棘を含ませる。
普段では言えないような酷い言葉が、平気で口からこぼれてしまう。
「ふっ。まぁ世間の目なんて、そんなもんだよね。遊女なんて汚らわしい。適当に甘い言葉を囁いて、誰にでも股を開く浮かれ女だと思ってんだろ」
「実際そうじゃないですか。しかも、花魁は廓だけでなく、こんなところでまで殿方を咥えこんでいるのでしょ」
奈緒が言うと、音羽はわざとらしく袖で顔を覆った。
「おお嫌だ。いいところのお嬢さん気取りのあんさんだって、一皮剥けば同じだね。男を咥えこむだなんて、何て下品な物言いなんだい」
音羽の指摘に、奈緒の顔が、かっと赤くなった。
「経験もないくせに、随分な言葉を知ってるんだねぇ」
「遊女であるあなたから、そのような侮辱を受ける謂れはありません!」
「あんた、そんなに遊女を必死で蔑まないと、自分を保てないのかい?」
不意に音羽が、少し表情を引き締めて言った。
奈緒は黒坂の中の音羽の陰に激しく動揺したのに、音羽は自分の間夫に縁談がある、と聞いても、大して驚いていないようだ。
それにまた、奈緒は気を悪くする。
音羽のほうは、黒坂を好いていないのではないか?
---こういうところだって知ってるってことは、他にもそういう男がいるんだ。所詮遊女だものね---
そう思うと、自分が優位に立ったように思えて心も落ち着く。
奈緒は武家の女子らしく、姿勢を正して、キッと音羽を睨んだ。
「廓の中でならともかく、こんなところでこそこそ会うようなこと、妻としては許せません」
「残念だけどね、黒坂様と会うことは、やめる気はないよ。もっとも黒坂様に、わっちが捨てられりゃ仕方ないけどね」
どこまでも音羽は悠然と構えている。
折角優位に立ったと思ったのに、所詮小娘でしかない奈緒など、花街の花魁には敵わないのだ。
「……どうして花魁が、そこまで黒坂様に執着するんです。他の人とも、どうせこういうところに来てるんでしょう? 同じようなことを、誰にでも言ってるんじゃないですか?」
じわじわと奈緒の心を蝕む黒い染みが、言葉に棘を含ませる。
普段では言えないような酷い言葉が、平気で口からこぼれてしまう。
「ふっ。まぁ世間の目なんて、そんなもんだよね。遊女なんて汚らわしい。適当に甘い言葉を囁いて、誰にでも股を開く浮かれ女だと思ってんだろ」
「実際そうじゃないですか。しかも、花魁は廓だけでなく、こんなところでまで殿方を咥えこんでいるのでしょ」
奈緒が言うと、音羽はわざとらしく袖で顔を覆った。
「おお嫌だ。いいところのお嬢さん気取りのあんさんだって、一皮剥けば同じだね。男を咥えこむだなんて、何て下品な物言いなんだい」
音羽の指摘に、奈緒の顔が、かっと赤くなった。
「経験もないくせに、随分な言葉を知ってるんだねぇ」
「遊女であるあなたから、そのような侮辱を受ける謂れはありません!」
「あんた、そんなに遊女を必死で蔑まないと、自分を保てないのかい?」
不意に音羽が、少し表情を引き締めて言った。