淡雪
 それから五日ほど経った夕暮れ、奈緒が稽古から帰ると、家から見たことのない男が二人ほど出てくるのが見えた。

「とにかく初めの分だけでも、回収させてくだせぇよ」

「頼みますぜ、旦那。んじゃ三日後に」

 男は口々に言い、門から出て行く。
 格好からすると、ただの町人のようだ。
 それなりにきちんとしている。
 男たちを見送って、奈緒は家に入った。

「ただいま帰りました」

「あ、ああ、奈緒か」

 玄関口に父がいる。
 武士である父が、わざわざ玄関まで町人の相手をしに出てきたのか。

「どうなさったの? 誰か来ていたようですけど」

 聞いてみるが、父は、いや、と言っただけで、奥に入った。
 何だかこの短期間で、随分やつれたような。

「父上。嫁入り道具など、今ある分で十分ですよ」

 何となく状況を察し、躊躇いがちに言ってみたが、父は無理やり笑顔を向けた。

「何を言うか。可愛い一人娘の晴れの舞台に、恥ずかしい思いはして欲しくない。お前はそんなこと、何も気にせずともよいのだ」

 先の二人は、札差のところから来たのだろう。
 取り立てに来たのだ。
 そう手荒なことをしなかったということは、まだ力技には出ないということか。

 だがそれも、いつまでもつか。
 金を返している様子は全くないのだ。

 出世が絡んでいる以上、嫁入りに体面を気にするのも持参金をつけるのも理解できる。
 出世が叶えば、禄も増えて借金を返すこともできよう。
 ここで子供が口を出すべきではないと、奈緒は唇を噛んだ。
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