今宵は遣らずの雨

「御前様っ」

左京はよく響く声で、兵部少輔を叱咤した。

「そのような気弱で如何(いか)がなされるっ。
待ちに待った御世継ぎが、やっとお生まれになるというのにっ」

「……左京」

兵部少輔が左京の手首を掴んだ。
病人とはとても思えぬ強い力だった。


「頼む……おれの代わりに……

生まれてくる子を……そして……初音を……」


左京は肯かざるを得なかった。

溢れ出しそうになる涙を堪えて、はっきりと告げた。


「……御意。
御前様の下知、確かにこの浅野 左京 長員、しかと承知(つかまつ)ってござる」

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