今宵は遣らずの雨

月命日に、その人はやってきた。

兵部少輔の妹の碧姫である。


碧姫は、周防徳山藩 六代藩主の毛利 志摩守 広寛の正室として輿入れしていた。

ところが、既に数年前、兄を奪ったのと同じ流行(はや)り病で夫を亡くしていた。享年三十二だった。

だから、今は碧姫ではなく、出家して瑞仙院(ずいせんいん)と呼ばれていた。

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