浅葱色が愛した嘘
懐かしく感じられる屯所の廊下。
幹部の部屋が並んでいる場所は屋敷から一番奥の所だ。
空には月が顔を出し、
町をそっと見守っている。
時間が遅いため、どの部屋の灯りも消されていた。
『………………。』
そうこうしているうちに沖田の部屋の前に辿り着いてしまう。
だが、襖を開ける勇気が出ない。
灯りが消えているから、寝ているのは確かだが
それでも開ける事に抵抗があった。
『堂々としていればいいのにな。』
一呼吸おき、音を立てる事なくようやすそっと襖を開ける。
_______やはり寝ているか。
そこには沖田は小さな寝息を立て、眠っていた。
外からこぼれる月明かりが沖田の顔をうっすらと照らした。
初めて見る沖田の寝顔___。
桔梗は思わず微笑んだ。
本当に___綺麗な顔をしている。
長いまつ毛に、通った鼻。
肌は少し焼けてる。
桔梗は沖田の前に座り、
その寝顔を眺めていた。
のぉ。私に見せたあの優しい笑顔を、あの遊女にも見せていたのか?
あの甘い声で、あの遊女の名前を何度も囁いたのか?
所詮、私はお前の気まぐれな玩具だったのか?
桔梗の思いは涙となり、沖田の頬にこぼれ落ちた。
『………んっ』
不意に沖田が反応した。
そして、
『桔梗___ごめんね。
僕から離れないで。』
それは紛れもなく、
沖田が桔梗を求めていた言葉だった。