浅葱色が愛した嘘
『私は母の名も父の名も知らない。
どこで生まれたのか、この名は誰が付けたのか、なぜ一族は私だけしか居ないのか……
何も知らないんだ。
ただこの八年間、復讐のためだけに生きてきた。
あの日から私の中でそれしかない。』
桔梗はまるで昔話を終えるようにそっとため息をついた。
『私は妖だ。
正体がばれた以上
もう、ここには居られない。』
やっと想いが通じ合えた沖田とでさえ、離れるという心の準備は出来ていた。
その場に居た全員が言葉を失う____
土方でさえも、桔梗の過去の惨さに何も言えない。
自分たちがはるかに想像していたよりも、残酷な桔梗の過去____。
沖田は複雑な表情をしていた。
『迷惑をかけてすまない。
軽蔑しただろう。
当たり前だ。
今、お前たちの目の前にいる女は人間ではなく化け物なのだから。』
桔梗の手は震えていた。
初めて人間に生まれたかったと思った。
沖田に出会い、人の温もりに触れ、
氷のように冷たかった桔梗の心は
本来、人間が持つべき人の心を持ちつつあった。
『私が本気を出し、狩りを行えばこの瞳は赤く染まる。
妖狐は別名、九尾と呼ばれ、
妖狐の力を使えば使う程に、尾が一本ずつ生えてくる。
その尾が九本になった瞬間、
私は心を無くし、人を喰らうだけの化け物になる。』
いつ、この力を制御できなくなるか分からない。
桂や高杉の首を跳ねるその瞬間、力が暴走するかもしれない。
もし、その時、新撰組の隊士が居たら………
敵味方関係なく、殺してしまう。
今の桔梗はその事を一番恐れていた。