浅葱色が愛した嘘
『おい』
ふと、土方と沖田が馬に乗った瞬間、後ろから声が聞こえる。
『高杉……』
土方はポツリとその名を口にした。
先ほどまで桂と共にいた高杉は目の前で死んでいった仲間を足で蹴った。
『俺は長州の人間。
お前らの敵だ。殺さなくていいのか?』
『今はお前に構っていられるほど暇じゃない。
だけど、次会った時は殺すから。
行きましょう。土方さん。』
沖田は高杉に背を向けると
(______そうか。)
と、高杉は小さく笑う。
『一つだけ教えてやる。
これは澄朔から聞いた話だ。』
高杉は真っ直ぐと沖田の目を見ていた。
『桔梗はさっき、妖力ほぼ限界に達するまで解放した。
その結果、桔梗からは尾がや牙が生えた。
だが今はこうして元の姿に戻っている。
これがどういう事だか分かるか?』
沖田や土方にその意味が分かる訳もなく、二人は静かに首を横に振った。
『前よりも、確実に妖に近づいているということだ。
慣れない力を使い、九本中の三本の尾が生えた。
目の色が変わる程度の妖力解放ならまだいいが、完全なる力を引き出そうとした事によって、
桔梗が気づかないうちに、体はどんどん妖となり、やがては人の心を忘れ、
沖田……お前の事すらも分からなくなり殺そうとするだろう。』
だんだんと、妖が目覚めるという感覚は次第に桔梗自身が自覚しはじめる。
そうなった時、この女はどうするか。
そして、沖田。
お前もどうするか、だ。
高杉はそれだけを言い残すと、満月の輝く月夜の下、千年桜の花びらを見にまといながら、霧の中へと消えていった。