浅葱色が愛した嘘
桔梗はまるで何かを思い出したかのようにハッとした。
総司………
もう一度、貴方に会いたい。
もう一度、その温もりに、その優しさに、その愛に、触れたい。
桔梗は愛おしそうに笑った。
『それとね、桔梗。
君にはもう時間があまりない。』
ふと澄朔が険しい顔をした。
(時間がない。)
それは一体何を意味しているのか
桔梗には分からなかった。
『それはどういう事だ?』
今ここで元の世界に戻っても、またすぐに死ぬと言う事だろうか。
澄朔はゆっくりと桔梗の頬を自分の手でそっと包み込んだ。
『よく聞いて。
君は完全なる妖力解放をした事によって、妖気を抑え込んでいた鎖が解けた。
つまり、
君の体や心は時間が立つにつれて妖に近づいていく…。
確実に。
そして最後は完全なる妖狐になる。』
澄朔が告げたのはあまりにも残酷な桔梗の最後だった。
愛する者と共に暮らす事すらも許されない。
それどころか、側にいることさえも出来なくなる。
それは止められないか?
いつものように、妖力を操り、使いこなす事は出来ないのか?
尾や牙が生えたと言う事は鎖が解けた事を意味していた。
どうせ妖にこの身体を支配される運命が決まっていたのなら、澄朔が命を犠牲にする必要なんてなかった。
自分の人生を生きてほしかった。
どうして?なぜ?
無駄に自分を犠牲にしたの?
桔梗は前が見えなくなっていた。
そんな桔梗に澄朔は優しく言った。
『ごめんね、桔梗。
俺の力にも限界があるんだ。
いまもこうしている内に桔梗の身体は妖に近づいている。
俺の力はそれを遅らせるのがやっとなんだよ。
だから残り少ない、人間としての心を持っているうちに愛する人と幸せな時間を過ごせ。
そしていつしか、実感し始める。
自分が妖になりかけていることに。
その時は全てを捨てて、今の居場所を捨てる時だ。』
どんなに作り上げてきた居場所でさえも、妖に生まれてきた以上、その運命(さだめ)に簡単に壊される。
人間に生まれていれば、こんな事にはならなかった。
人間に生まれていれば、ただ普通の幸せを掴む事ができた。
なんで、私は妖狐なの?
なんで、私は化け物なの?
どうして、普通ではいられない?
これがきっと…妖として生まれ、人々を殺し続けてきた罰だと神様は言うのでしょう。
あまりにも残酷で悲しい結末。