浅葱色が愛した嘘
『おや、新しい子かい?』
『あい。
天霧(あまぎ)様は初のお目見えでありんしょう。』
吉乃は天霧(あまぎ)と呼んだ。
そんな名前、聞いた事がない。
きっと、偽名だと桔梗は悟った。
『お初にお目にかかりんす。
わっちは朱雀(すざく)でありんす。』
本当の名の桔梗でもなく、
新撰組での偽名ある澄朔でもなく、
桔梗はまた新たな名前を口にした。
桔梗の事を知っている人物は少ないが、
相手は長州の人間だ。
(桔梗)という名だけでも素性がバレるかもしれない。
(あの日)に関わっていた長州の人間ならなおさら______
不意に桔梗がついた嘘。
それを横で聞いていた吉乃は何かを察し、
『では、朱雀。
天霧様にお酒を…。
わっちは少し席を外すでありんす。』
顔色を何一つ変えることなく、(朱雀)と呼んだ。