シンデレラのドレスに祈りを、願いを。

『早百合さんだよね。よかった。探してたんだ』
『うん……』
『いま、どこにいるの?、なにしてるの?』
『事務員してる。今日はちょっと……知り合いに頼まれて手伝いで来たの』
『そう。でも元気そうでよかった。急にいなくなったから心配してたんだ』
『心配してくれたの?』
『うん』


優しい悠季くんの言葉に胸が痛んだ。勝手に出産することを決めて勝手にいなくなったのに。なのに悠季くんは以前と変わらない笑顔を私に向けてくれた。

2人で見つめ合う。時間があの頃にもどったように。

さっきまでバレたらどうしようとハラハラしていた胸が、今度は急に切なく痛み出した。

悠季君!、と遠くから誰かに呼ばれた。振り返ると手招きをしている。悠季くんはスーツの内ポケットから革製のカードケースを取り出し、名刺を一枚、私に差し出した。


『また会える? ここに連絡して』


頬に熱がともされる。
悠季くんは私に顔を近づけ、頬に優しいキスを落としたからだ。




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