シンデレラのドレスに祈りを、願いを。

足がすくわれる感触におっかなびっくりだった悠斗もすぐに慣れ、浮き輪で果敢に波へ向かっていた。

悠斗には父親だと告げていない。
私が悠季くんと呼ぶものだから、悠斗もユーキくんと呼んでいる。ママのお友だち、ということにしてあった。

悠季くんが予約してくれた宿は海の見えるコテージだった。小高い丘の上にあり、麓の街と海が一望できる場所。水平線に沈む夕日がきれいだと評判のところだった。広い敷地内にヨーロッパの街に迷い込んだような白壁の洋館が点々と存在する。繁忙期にこんな素敵な宿、いったいいくらするんだろう。私のひと月分のお給料でまかなえるのかなって。

敷地内にあるレストランで簡単に食事をとる。悠斗は豪華なお子さまランチに目を輝かせ、嫌いだったブロッコリーも軸まで食べてしまった。

眠いとぐずる悠斗を悠季くんがおんぶして部屋にもどり、悠斗を寝室に寝かせ、私と悠季くんはウッドデッキで飲むことにした。

隣の様子は見えないよう配慮しているのか、コテージ間は適度な距離がある。図らずも悠季くんとふたりきりだ。

遠くに濃紺の海。空には満天の星。デッキの明かりは敢えてつけずに、波の音を聴きながらスパークリングワインを飲む。

こんな優雅な夜は何年振りだろう。

高校生だった悠季くんがワイングラスを手にしている。悠季くんは大学4年生、21歳だ。落ち着いてるからもう少し上に見える。大きな手でボトルを持ち、泡を立てずにそっと注ぐ姿は、もう大人の男だ。
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