暴君陛下の愛したメイドⅠ【完】


せめてグラントの服を掴もうと手を伸ばしたとき、

「きゃっ!」


それは一瞬のことで、お店とお店の間に出来た暗く細い隙間道に体を引きずり込まれた。


「誰!?」

身の危険を感じ咄嗟に叫ぶ。


「命が欲しけりゃ口を塞いでることだな」


「お前は近くに邪魔者がいないか調査してこい」

「了解」

私を裏に引きずり込んだのは3人の男。


男だろうが女だろうが、あの場所でさらうつもりだったのだ。


「しかし、フードを被ってて顔がよく見えねぇな。ブスだったら売値も下がるってやつだ。ほら見せろ」


____バサ…………。


男の手によりフードを下ろされ、隠すものを失った黒髪が露わになる。


眼鏡さえも家に置いているから、顔を隠すものは何もない。


……………………と言っても、残念な顔であるのには変わりないが。


「………………………ほぅ、これは思ったより上玉じゃねぇか。売るには少し惜しすぎる」


「しかもこの娘、黒い髪をしているぜ!こんなに黒い髪は見たことねぇ………………。それに肌も透き通るような白さだ!」


私を見るなり歓喜の声を上げる。

『売るには』ということは、私は売買される為に連れ去られたのだろうか。

殺されないだけまだマシだが、それでも怖い。


「おい!早くここを離れねぇと、何かヤバそうだ。近くに宮殿から送られた使者が町の視察に来てるらしいぜ」

「……………捕まったりしたら俺らは終わりだな」


(宮殿…………!!?)


使いを出され官僚たちに町の視察させる事は良くあること。


そういうときは必ず兵士も同行させる。

(もしここで騒ぎ、運が良ければ助かる可能性もある………)


しかし失敗すれば逆に私の命が危うい。


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