暴君陛下の愛したメイドⅠ【完】
「みね打ちか………まぁ良い。生きてるものは直ぐに捕え、後で尋問にかけることにしよう」
冷たい表情でサラリと恐ろしい言葉を発する男。
気づけば兵士が周りを取り囲んでおり、先程グラントが言っていたみね打ちされた男たちが捕らえられていた。
(この人は一体………………)
指示一つで兵士を従わせるなんて、普通の人じゃ出来ない。
(だとすればこの人が宮殿から来られた使者の方……………?)
それにしても、通常の官僚たちより迫力が凄い気がするのは何故だろう。
「アニ姉。この人たちに後の事は任せて帰ろうぜ」
「そうだね…………」
どちらにせよ、もしかすると再び宮殿でこの人に会うかもしれない。
それならば、その時にどこの誰なのかが分かる。
「助けてくださりありがとうございました。私らはここで失礼致します」
男の前で深く礼をして、その場から立ち去ろうとした。
だが、
「待て」
そんな声によって阻止される。
知らない人なのだから、このまま振り返らずに帰っても良い気がしたが、それではいけないと心の声がどこからか聞こえた気がした。
「何でしょう?」
「宮殿の仕事に興味はないか?」
それはまさかのお誘いだった。
普通の女であれば宮殿で働けるチャンスなどほとんどなく、そもそも難関な試験を突破する以外、就ける道はない。
そうやって私も難関な試験を突破し、宮殿へ就いた。
しかし中にはコネで入った者も多数聞く。
官僚の知り合いであれば、ほぼ確率に宮殿に就けるだろうが……………………………私は既にメイドの身。
嬉しい話だが断る他ない。
「……………申し訳ございません。とても光栄な話ではございますが、私は興味がございません」