暴君陛下の愛したメイドⅠ【完】
唯一私の事情をこの中で知っている弟は、宮殿で働いてる事を言えば深く追求されると考え、助かることに余計な口出しはしなかった。
あくまでも私はこの町の娘で、普通の女だということをこの場しのぎにアピールする。
「…………そうか」
すると男は分かってくれたのか、納得したようにそう口を開いた。
だがしかし、まだ諦めていなかった。
「実に面白い。では、違う理由で来るが良い」
「…………ち、違う理由とは?」
恐る恐る聞いてみる。
「客人として余が飽きるまで宮殿にいろ」
それは驚く内容。
客人として、宮殿にいるなんて普通じゃあり得ないことだし、そもそも貴族でも何でもない町娘を客人扱いなんて陛下は許さないだろう。
官僚といえど、あの恐ろしい陛下の機嫌を損ねると命無いなど分かっているはずなのに、おかしな事をいう方だ。
「客人などいけません。貴族でも何でもない私を宮殿に招き入れるなど」
「余が言っているのだから大丈夫だ」
『従え』とでも言うような、冷たい目。
逆らったら何かが起こりそうで怖く感じた。
弟の心配そうな顔が見える。
「……………………もし宮殿に行かなければどうなりますか?」
「反逆と見なし、牢に入れる」
(反逆って……………別に陛下や国に逆らったら訳でもないのに物騒な言葉。でも、仕方ない)
「…………………行きましょう」
弟や家族を巻き込ませるわけにもいかない。
それに、もし牢に捕らえられでもしたら身元が知られる恐れもある。