暴君陛下の愛したメイドⅠ【完】
しかし何とも不思議で、その男が発した「客人」との一言でその場を済まされてしまった。
詳しく聞き出そうな宰相様であったが、それ以上深い話はその場では聞いてこなかった。
「客室が確かあったはずだ。メイド長をここに呼び、そこへ案内せよ」
「御意。急ぎメイド長をここへ!!」
先程から実に気になっていたが、何故この男が指示すると周りが動くのだろう。貴族であれば、宰相を動かくなど出来ないことなのに。
貴族でなければ官僚という話に戻るが、それでも辻褄が合わない。
何にせよ客人がいるから部屋を使わせるなど、陛下許可なしでは無理だ。
となると、この人は…………………………………………。
「あの……………恐れ入りますが貴方様は誰なのです?」
(お願い……………違って!!!)
一つの答えが自分の中で浮かんでいたが、違うことをひたすら心の中で願う。
「余か?おかしな事を聞くものだ。まぁ、良い。そなたは先程出会ったが故、余を知らぬからな」
冷たかった表情が一瞬だけ緩んだ気がしたが、それは直ぐに元通りになった。
「余はこの国の王だ」
出会っときから恐ろしい言葉を口に出し、冷たい目をなさる方だとは思っていたが、まさかそこに私の仕える陛下がいたなんて誰が予想するだろう。
誰も思うはずがない。
「…………………………」
ふと気づいていた事なのに、いざ目の前で言われると返す言葉が見つからない。