言い訳~blanc noir~
『明日お休みですよね? 今夜良かったら一緒にお鍋しませんか?』
仕事の途中、千尋からメールが届いた。返信の代わりに電話を掛ける事にした。
スマートフォンを首と肩の間に挟み、ジャケットを羽織りながらオフィスを後にする。コール音が3回鳴ったところで千尋に繋がった。
「あっ! 椎名さん? ごめんなさい、お仕事中に電話しても大丈夫なんですか?」
「大丈夫ですよ。今ちょうど外回りに出るところだったので」
「良かった。あの、メールの通りなんですけど。今夜お鍋でもどうかなぁと思って」
電話越しに聞こえる千尋の声から満面の笑みを浮かべているのが伝わってきた。
和樹は腕時計に目を向けながら階段を下り、行員専用の出入口へ繋がる扉を開けた。
「仕事が終わり次第伺います。そちらに着くのが7時過ぎくらいかな。その時間でも大丈夫ですか?」
「はい! 今夜すき焼きにしようかなと思ってるんですけど、お嫌いじゃないですか?」
和樹の足がぴたりとその場で止まる。
千尋の言葉を耳にした途端、思考がそこでぷつりと途絶えたかのような錯覚に陥った―――
『ご主人様』
どこかから沙織の声が聞こえる。
顔に強いフラッシュをあてられたかのように真っ白な光に包まれ、脳裏で沙織と最期に交わした言葉が蘇ってきた。
『寒いからすき焼きでもしましょうか?』
『そうだね。すき焼きがいいな』
『じゃあ。今夜は早く帰って来てくださいね』
『ごめん。また後でね』
『はーい! 頑張ってくださいね』
胸の鼓動が耳をつんざくサイレンのようにけたたましい音をたて体内で鳴り響く。
『ご主人様』
喉の奥に言葉が詰まったまま、あの何度も感じた息苦しさが全身を襲う。
『ご主人様』
目を覆いたくなるようなあの日の映像が和樹を一気に飲み込んだ。
沙織……。
『ご主人様』
沙織……。
『ご主人様』
沙織……?
『ご主人様、私の事愛してますか?』
沙織が猫のような目を幸せそうに細め胸に顔を埋めたあの光景。
鼻にかかるような沙織の甘えた声が何度でも頭の中で再生される。
和樹は言葉を失ったままその場に立ち尽くしていた。
「椎名さん? もしもし? 椎名さん?」
仕事の途中、千尋からメールが届いた。返信の代わりに電話を掛ける事にした。
スマートフォンを首と肩の間に挟み、ジャケットを羽織りながらオフィスを後にする。コール音が3回鳴ったところで千尋に繋がった。
「あっ! 椎名さん? ごめんなさい、お仕事中に電話しても大丈夫なんですか?」
「大丈夫ですよ。今ちょうど外回りに出るところだったので」
「良かった。あの、メールの通りなんですけど。今夜お鍋でもどうかなぁと思って」
電話越しに聞こえる千尋の声から満面の笑みを浮かべているのが伝わってきた。
和樹は腕時計に目を向けながら階段を下り、行員専用の出入口へ繋がる扉を開けた。
「仕事が終わり次第伺います。そちらに着くのが7時過ぎくらいかな。その時間でも大丈夫ですか?」
「はい! 今夜すき焼きにしようかなと思ってるんですけど、お嫌いじゃないですか?」
和樹の足がぴたりとその場で止まる。
千尋の言葉を耳にした途端、思考がそこでぷつりと途絶えたかのような錯覚に陥った―――
『ご主人様』
どこかから沙織の声が聞こえる。
顔に強いフラッシュをあてられたかのように真っ白な光に包まれ、脳裏で沙織と最期に交わした言葉が蘇ってきた。
『寒いからすき焼きでもしましょうか?』
『そうだね。すき焼きがいいな』
『じゃあ。今夜は早く帰って来てくださいね』
『ごめん。また後でね』
『はーい! 頑張ってくださいね』
胸の鼓動が耳をつんざくサイレンのようにけたたましい音をたて体内で鳴り響く。
『ご主人様』
喉の奥に言葉が詰まったまま、あの何度も感じた息苦しさが全身を襲う。
『ご主人様』
目を覆いたくなるようなあの日の映像が和樹を一気に飲み込んだ。
沙織……。
『ご主人様』
沙織……。
『ご主人様』
沙織……?
『ご主人様、私の事愛してますか?』
沙織が猫のような目を幸せそうに細め胸に顔を埋めたあの光景。
鼻にかかるような沙織の甘えた声が何度でも頭の中で再生される。
和樹は言葉を失ったままその場に立ち尽くしていた。
「椎名さん? もしもし? 椎名さん?」