言い訳~blanc noir~
千尋の呼びかける声。
その声でふっと呪縛が解けたかのように意識が再び動き始めた。
それまで沙織の声しか聞こえなかった左耳に車が行き交うノイズや人の話し声が一気に流れ込んでくる。
右の耳には千尋の声が鮮明に飛び込んできた。
和樹は額の汗を拭いながら青ざめた顔で小さく息を吐く。
「―――すみません。ちょっと電波が悪かったようです」
壁にもたれ掛かり、絞り出すような声を発した。
「びっくりしました。電話が切れたかと思いました」
「―――今夜伺いますので」
「はい。お待ちしてますね」
電話を切ると和樹は壁に背を滑らせながらその場にしゃがみ込んだ。
胸の鼓動がまだとくん、とくんと音を響かせている。
―――沙織は死んだんだ。もういい加減わかってるだろ?
自分に何度も言い聞かせながら立ち上がり、そして、外に出た。トラックのクラクションがどこかから聞こえた。その音に、和樹の体がびくっと反応し、呼吸が詰まる。
ここ最近、和樹は頻繁にフラッシュバックに襲われていた。
それは突風のように前触れもなく吹き付け、何もかもをめちゃくちゃに掻き乱す。四肢を切断されるかのような痛み、深い海の底に沈められるような冷たい感覚に呼吸が止まる。
それはいつも千尋の何気ない言葉が引き金となっていた。
沙織と千尋がどういうわけか重なってしまう。
見た目が似ているわけでも、声が似ているわけでもない。
なぜだ。
意識下に封印していたはずの記憶や感情を揺さぶられるようなこの感覚に逃げ出したくなる。
「何なんだよこれ……」
和樹は重たい溜息を零した。
その声でふっと呪縛が解けたかのように意識が再び動き始めた。
それまで沙織の声しか聞こえなかった左耳に車が行き交うノイズや人の話し声が一気に流れ込んでくる。
右の耳には千尋の声が鮮明に飛び込んできた。
和樹は額の汗を拭いながら青ざめた顔で小さく息を吐く。
「―――すみません。ちょっと電波が悪かったようです」
壁にもたれ掛かり、絞り出すような声を発した。
「びっくりしました。電話が切れたかと思いました」
「―――今夜伺いますので」
「はい。お待ちしてますね」
電話を切ると和樹は壁に背を滑らせながらその場にしゃがみ込んだ。
胸の鼓動がまだとくん、とくんと音を響かせている。
―――沙織は死んだんだ。もういい加減わかってるだろ?
自分に何度も言い聞かせながら立ち上がり、そして、外に出た。トラックのクラクションがどこかから聞こえた。その音に、和樹の体がびくっと反応し、呼吸が詰まる。
ここ最近、和樹は頻繁にフラッシュバックに襲われていた。
それは突風のように前触れもなく吹き付け、何もかもをめちゃくちゃに掻き乱す。四肢を切断されるかのような痛み、深い海の底に沈められるような冷たい感覚に呼吸が止まる。
それはいつも千尋の何気ない言葉が引き金となっていた。
沙織と千尋がどういうわけか重なってしまう。
見た目が似ているわけでも、声が似ているわけでもない。
なぜだ。
意識下に封印していたはずの記憶や感情を揺さぶられるようなこの感覚に逃げ出したくなる。
「何なんだよこれ……」
和樹は重たい溜息を零した。