言い訳~blanc noir~
 フラッシュバックを恐れている。

 前触れもなく突然訪れる息苦しさは経験した者にしかわからない。

 真っ直ぐに向けられた千尋の眼差しを避けるように視線を外しながらティーカップを口に運ぶ。

「椎名さんの事を幸せに出来るのは私しかいない。そして私の幸せは椎名さんとじゃないと築けないって。何の自信なのかわからないんだけど、初めてお会いしたときに思ったんです」

「……それは光栄です」


 幸せ……。

 その言葉をここのところ何度耳にしただろう。佐原と美樹の顔が脳裏に浮かぶ。

 和樹は溜息をつきたい衝動に駆られたが、強引に押し込め平静を装った。


「まだお互いに知らない事たくさんあると思うけど一つずつ知っていけたらいいなぁって思ってます。椎名さんの事もたくさん知りたいし、私の事も知ってもらいたいし」

「そうですね。時間はたくさんありますから、お互いにいいところも悪いところも含めて少しずつ知っていけたらいいな、と僕もそう思っています」

 そう言うと千尋は笑顔で頷く。

 すると何かを思いだしたかのように「あっ」と声を発した。

「そうそう。椎名さんってAB型のてんびん座でしょ? 朝のテレビで観たんですけど今日のAB型の運勢一位だったんですよ。星座占いではてんびん座が一位! 両方一位って確率的に凄いですよね!」

「え? 僕はA型のさそり座ですよ……」

「まじで?」


 和樹は思わず吹き出してしまった。千尋がきょとんとした顔で和樹を見つめる。


「千尋さんのその“まじで?”って口癖ですか?」

「えっ? おかしいですか?」

 和樹は笑いを堪えながら千尋に視線を向けた。

「おかしいというか。意外です。そういう言葉って言いそうにないから」

「まじですか?」

「まじです」

 和樹が笑いながら返すと千尋もくすっと吹き出した。
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