言い訳~blanc noir~
「はい、横になってください」
千尋が和樹の腕を引く。促されるままベッドに横になると部屋の照明が落とされスタンドの灯りがともされた。
オレンジ色の仄かな灯りが優しげに部屋を包み込む。遠慮気味にベッドの端に腰をおろした千尋は、ゆっくりと語り始めた。
「もう10年くらい昔かなぁ。まだ私が18か19の頃の話なんですけど。友人に誘われてブログを書き始めたんです。でも友人みたいに上手に書けなくて。書いちゃ消し、書いちゃ消しってやってたんですよね。何を書けばいいかわからなくて、それでシロの事を書いたんです」
そう言うと千尋はシロの写真に視線を向け懐かしそうに目を細めた。
「だけどシロの事しか書いていない面白くもなんともないブログだから、誰もコメントなんて書いてくれなくて。もう辞めようかなぁって思っていた時に初めてコメントをもらったんです。その方、真っ黒な猫を飼われてる方で。猫ちゃんの名前が“クロ”って言うんですよ。私は真っ白なシロ、その方は真っ黒なクロ。もう勝手に親近感が沸いちゃって」
千尋は当時を思い出したかのようにくすくすと笑った。
「私、このシロの写真をトップ画像に使ってたんですけど、その方から『トップ画像のシロちゃんに一目惚れしました。ぜひうちのクロのお婿さんになってください』ってコメントをもらったんです。たったそれだけのコメントだったんですけど凄く凄く嬉しかったんです。それ以来毎日欠かす事無くコメントのやり取りを続けて……。だけど何年か前にクロちゃんが心臓の病気になって―――」
そこまで話すと千尋はベッドに微かな振動を感じ、ゆっくりと振り返る。
すると手のひらで目を覆い、小さく肩を揺らす和樹の姿が目に映った。
「椎名さん……?」
和樹は奥歯を噛むように唇を固く結んでいる。小首を傾げた千尋は、もう一度和樹の名を口にした。
「椎名さん……?」
和樹を覗き込むと、両目を覆った手の隙間から、すっと涙が流れ落ちた。その光景に驚いた千尋の目が大きくなる。
「椎名さん!? どうされたんですか……!?」
身を乗り出しシーツの上に置かれた和樹の左手を握りしめた。
「ごめんなさい。体調がお悪いのに、こんな話聞きたくないですよね。私、向こうの部屋に行きますからゆっくり休んでください」
「聞かせてください……」
和樹の声が涙に震えているのがわかった。なぜ、急に和樹が涙を流しはじめたのか、その理由が千尋にはわからない。
「でも……こんな話……」
和樹の手が千尋の手を強く握り返した。「聞きたいんです。聞かせてください」
千尋は少し戸惑ったような表情を浮かべた後、ぎゅっと唇を結ぶ。
「私も隣に寝てもいいですか?」
千尋が和樹の腕を引く。促されるままベッドに横になると部屋の照明が落とされスタンドの灯りがともされた。
オレンジ色の仄かな灯りが優しげに部屋を包み込む。遠慮気味にベッドの端に腰をおろした千尋は、ゆっくりと語り始めた。
「もう10年くらい昔かなぁ。まだ私が18か19の頃の話なんですけど。友人に誘われてブログを書き始めたんです。でも友人みたいに上手に書けなくて。書いちゃ消し、書いちゃ消しってやってたんですよね。何を書けばいいかわからなくて、それでシロの事を書いたんです」
そう言うと千尋はシロの写真に視線を向け懐かしそうに目を細めた。
「だけどシロの事しか書いていない面白くもなんともないブログだから、誰もコメントなんて書いてくれなくて。もう辞めようかなぁって思っていた時に初めてコメントをもらったんです。その方、真っ黒な猫を飼われてる方で。猫ちゃんの名前が“クロ”って言うんですよ。私は真っ白なシロ、その方は真っ黒なクロ。もう勝手に親近感が沸いちゃって」
千尋は当時を思い出したかのようにくすくすと笑った。
「私、このシロの写真をトップ画像に使ってたんですけど、その方から『トップ画像のシロちゃんに一目惚れしました。ぜひうちのクロのお婿さんになってください』ってコメントをもらったんです。たったそれだけのコメントだったんですけど凄く凄く嬉しかったんです。それ以来毎日欠かす事無くコメントのやり取りを続けて……。だけど何年か前にクロちゃんが心臓の病気になって―――」
そこまで話すと千尋はベッドに微かな振動を感じ、ゆっくりと振り返る。
すると手のひらで目を覆い、小さく肩を揺らす和樹の姿が目に映った。
「椎名さん……?」
和樹は奥歯を噛むように唇を固く結んでいる。小首を傾げた千尋は、もう一度和樹の名を口にした。
「椎名さん……?」
和樹を覗き込むと、両目を覆った手の隙間から、すっと涙が流れ落ちた。その光景に驚いた千尋の目が大きくなる。
「椎名さん!? どうされたんですか……!?」
身を乗り出しシーツの上に置かれた和樹の左手を握りしめた。
「ごめんなさい。体調がお悪いのに、こんな話聞きたくないですよね。私、向こうの部屋に行きますからゆっくり休んでください」
「聞かせてください……」
和樹の声が涙に震えているのがわかった。なぜ、急に和樹が涙を流しはじめたのか、その理由が千尋にはわからない。
「でも……こんな話……」
和樹の手が千尋の手を強く握り返した。「聞きたいんです。聞かせてください」
千尋は少し戸惑ったような表情を浮かべた後、ぎゅっと唇を結ぶ。
「私も隣に寝てもいいですか?」