言い訳~blanc noir~
「怒ってるんじゃない。呆れてるんだよ」
「呆れる? なにに……?」
「口を開けばいつも悪口なのか愚痴なのか、人を小馬鹿にしたような言葉しか言わない。美樹ちゃんはいつも間違ってないよ、正論だと思うよ。でも、自分の非を認めないよね?」
「……どういう意味?」
「自分の意見、考えばかりを人に押し付けて、相手の気持ちを考えた事あるか? 結婚、結婚って言うけど、所帯じみていく事を小馬鹿にする女と結婚なんか考えられないよ」
美樹は力が抜けたようにラグの上にへなへなと座り込んでしまった。
「どうして……? 私、椎名さんのために綺麗でいたいって、そう思ってるのに……」
「俺は美樹ちゃんの見た目だけで付き合ってきたわけじゃないから。その気の強いところも、わがままなところも可愛いと思ったよ。でも、いつも美樹ちゃんの機嫌ばかりとり続けるのは正直疲れるよ」
美樹に対してはっきりと自分の感情を伝えたのはこれが初めてだった。
「そんなふうに思ってたならどうして早く言ってくれなかったの?」
「言えばケンカになる。ケンカになりたくなかった、ただそれだけだよ」
美樹は堪えきれずに唇を震わせながら、ボロボロと涙を流した。
「……私と別れたいの?」
「多分、そうかもしれない」
「その言い方も狡い。私の事もう嫌いになった?」
和樹は煙草を消すと美樹を見つめた。
「嫌いになったわけじゃない。好きとか嫌いとか、そういう感情がなくなった」
それが本心だった。
決して美樹の事が嫌いになったわけじゃない。こうやって目の前で涙を流す美樹の姿を目にすると罪悪感を抱いてしまう。
ただ、涙を流す美樹を宥めすかし、都合のいい言葉を適当に掛けながら、抱きしめたいとかキスしたいとは思わなかった。
美樹の姿を目にしながら、頭の片隅では沙織の姿を思い浮かべる。
好きな女がいる。
そう言えないのは自分の狡さだと、和樹は自覚していた。