言い訳~blanc noir~
気が付くと、和樹は部屋を飛び出していた。
沙織に会いたかった。
どうしても今すぐに沙織に会いたくてコートも着ないまま夜道を駆けていた。
鼻先を赤く染め、俯いたままエントランスを出て行った、あの沙織の姿が瞳の奥に焼き付いたかのように離れない。
「お留守みたいだから、出直します」
そう言った沙織の声が耳に残っている。
沙織は自分をどう思っているのだろうとか、会ったらどう言い訳しようとか、そういう事は何も考えられなかった。
ただ沙織に会いたい、その思いだけで無我夢中で沙織が暮らすアパートへ和樹は向かっていた。
突き当りの角を右に曲がるとアパートの屋根が視界に飛び込む。
しかしその光景が和樹を一気に現実へと連れ戻してしまった。
屋根を見上げたままぴたりと足が止まる。吐き出される息の白さとは裏腹に体が熱を帯びていた。
時刻は既に10時を過ぎている。
こんな時間にアパートに行ったところで沙織に会えるはずがない。
―――俺は何を子供染みた事をしているのだろう。沙織は既婚者だろ……。
そんな事、最初からわかっていたはずだ。
やり場のない思い、情けなさ、そんな思いが込み上げ、和樹の胸を締め付ける。
それに沙織が自分の事をどう思っているかさえわからない中、自分の取った行動があまりにもくだらなくて、浅はかに思えてしまった。
沙織に対して、あれこれと言い訳をするような間柄でもない。
―――俺はただの“ご主人様”で沙織は“家政婦”でしかないのだから。
和樹はアパートから視線を外すとゆっくりと来た道を歩き出した。
木枯らしが街路樹を揺さぶる。頬を突き刺すような寒風に煽られ、そこで初めて自分がコートを着ていない事に気が付いた。
すると風の音に紛れ、微かに猫の鳴き声が聞こえた。
沙織に会いたかった。
どうしても今すぐに沙織に会いたくてコートも着ないまま夜道を駆けていた。
鼻先を赤く染め、俯いたままエントランスを出て行った、あの沙織の姿が瞳の奥に焼き付いたかのように離れない。
「お留守みたいだから、出直します」
そう言った沙織の声が耳に残っている。
沙織は自分をどう思っているのだろうとか、会ったらどう言い訳しようとか、そういう事は何も考えられなかった。
ただ沙織に会いたい、その思いだけで無我夢中で沙織が暮らすアパートへ和樹は向かっていた。
突き当りの角を右に曲がるとアパートの屋根が視界に飛び込む。
しかしその光景が和樹を一気に現実へと連れ戻してしまった。
屋根を見上げたままぴたりと足が止まる。吐き出される息の白さとは裏腹に体が熱を帯びていた。
時刻は既に10時を過ぎている。
こんな時間にアパートに行ったところで沙織に会えるはずがない。
―――俺は何を子供染みた事をしているのだろう。沙織は既婚者だろ……。
そんな事、最初からわかっていたはずだ。
やり場のない思い、情けなさ、そんな思いが込み上げ、和樹の胸を締め付ける。
それに沙織が自分の事をどう思っているかさえわからない中、自分の取った行動があまりにもくだらなくて、浅はかに思えてしまった。
沙織に対して、あれこれと言い訳をするような間柄でもない。
―――俺はただの“ご主人様”で沙織は“家政婦”でしかないのだから。
和樹はアパートから視線を外すとゆっくりと来た道を歩き出した。
木枯らしが街路樹を揺さぶる。頬を突き刺すような寒風に煽られ、そこで初めて自分がコートを着ていない事に気が付いた。
すると風の音に紛れ、微かに猫の鳴き声が聞こえた。