言い訳~blanc noir~
「家に帰っても誰もいないし、主人はあっちのお宅で美味しいご飯を食べて、ふかふかのお布団で子供と一緒に寝るんだなぁって思ったら家にいるのが嫌になったんです」


 そう言うと沙織は笑った。

 笑いながら話す内容でもない。なぜ沙織が笑うのか和樹にはわからなかった。

 どうして沙織にこんな思いをさせるのか。

 見た事のない夫へどうしようもない怒りを覚えた。


「ご主人様は?」


「え?」


「だから、ご主人様こそこんな時間に何してたんですか?」



 沙織は立ち上がると毛糸のマフラーを外し和樹の首に巻きつけた。


「そんな薄着だと風邪ひきますよ」


 沙織が小首を傾げ柔らかく微笑んだ。


 もうだめだ、そう思った。

 沙織をこの手で抱きしめたいと、そう思ってしまった。


 しかし今度はクロに邪魔されてしまった。

 突然「ぎゃおぎゃお」という雄叫びをクロがあげ始めたのだ。


「クロ、ごめんごめん。クロも寒いね」


 沙織がしゃがみ込みクロに話し掛ける。


「ご主人様、ご飯もう食べました?」


 沙織が見上げた。


「まだです」


「じゃあ、今からすき焼きしませんか?私もお腹すいちゃったし」


 沙織がにっこりと微笑む。

 クロの雄叫びが公園に響き渡っていた。


 クロは敵なのか味方なのかよくわからないヤツだ。


 和樹はやり場を失った手を再びもたつかせながら苦笑いした―――
< 44 / 200 >

この作品をシェア

pagetop