言い訳~blanc noir~
「―――椎名さんって遊んでそうですよね」


 突然前振りもなく、そんな事を古賀という人事部の女に言われ唖然とした。


「え、どうして?」


「んー、何となく? 女慣れしてそうというか。ちょっと食事でも行けば遊んで捨てられそうな気がします」


 古賀は悪びれる様子もなく「あはは」と笑う。

 そんな気がする、という言葉ほどいい加減なものはない。

 何か決定的な根拠があるわけでもなく、ただ本人がそう感じただけという六感で言葉を発しているのだから。


「俺、古賀さんから見ると遊び人に見えるんだ」


「いや、何となくですよ。でも浮気した事くらいあるんじゃないんですか?」


「浮気って何をもって浮気になるの?」


「エッチしたかしてないかじゃないんですか? 彼氏彼女いるのに他の異性としたかしてないか?」


 特定の恋人がいながら他の異性とセックスする事、それを浮気と呼ぶのであれば、過去にそういう事は何度かあったような気がする。

 言葉に窮し、笑ってその場を乗り切ろうとした。

 しかし、古賀は「笑って誤魔化してる」と胡乱な目を和樹に向ける。


「でも、もうそういう事する気ないよ」


 沙織の事を思い浮かべながらそう言ったつもりだった。しかし古賀は勿論沙織の事を知るはずもない。案の定こう言われてしまった。


「そりゃあ、あんなに美人な彼女がいれば他の女なんて目にも入らないでしょうね」


 古賀は美樹の事を指していた。

 もう一度笑ってごまかすと今度は古賀に指摘される事もなく、その場をやり過ごす事ができた。


「お疲れ様。住宅展示場に融資の書類を渡してから今日は直帰するよ」


「あ、はい。お疲れ様でした」


 美樹と別れたのか別れていないのか、よくわからない状態のまま3週間が過ぎた。

 相変わらず沙織は週に3、4日のペースで午後7時半になるとクロと一緒に現れる。

 そして、いつもと同じように手際よく夕飯を作り、それを共に食べ、他愛無い会話をしながら紅茶を飲み、10時頃になるとクロと共に部屋を後にする。


“ご主人様”と“家政婦”の関係は以前と何も変わらずそのままだ。

 ただ沙織へ対する和樹の思いは日を重ねるごとに大きく膨らむ一方だった。


 しかし、はっきりと自覚していた。


 沙織が好きだ、と。
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