言い訳~blanc noir~
―――俺は高校生か。
自分に呆れてしまう。30手前の男が一人の女に好いた惚れたと、自分の感情に翻弄されている。そんな事はとてもじゃないが誰にも言えない。
それ以前に相手は人妻だ。
気持ちを沙織に伝える事自体、彼女にとっては迷惑な話だろう。既婚者相手に思いを伝える事ほど馬鹿げた話はないと思う。
「俺と不倫してください」
そう言っているのと同じだ。
ただ思う。
なぜ沙織は離婚しないのだろうか。
沙織は身の上を詳しくは語ろうとしない。同様に和樹の身の上を探る事はない。
美樹とマンションで鉢合わせた日の夜も沙織は一切その件には触れてこなかった。
しかし時折、沙織がぽつりぽつりと語る言葉を繋ぎ合わせると、夫は、あまりにも“普通”ではなかった。
最初に沙織と会った日の夜も、沙織は罵声を浴びせられ、アパートを追い出されていた。
ふとあの夜の事を思い出すと沙織は涙を流していた。今の沙織からは想像ができない。
いつも柔らかな笑みを浮かべ、何を話しても、何をしていても笑顔を絶やした日などない。
だが、沙織は今でも暴行を受けている日があるのだろう。立ち上がろうとしたときに「うっ」と顔をしかめ、脇腹を押さえた事もある。頬が心なしか腫れている日もあった。
「どうしたんですか?」と訊ねても、沙織は「ううん。何でもありません」とすぐに笑顔を見せる。
その笑顔は「何も聞かないで」と言っているようで、いつもそれ以上の事は訊けずに言葉を飲み込むしかなかった。
他にも“普通”ではない事がある。
愛人との間に子供が一人いるらしい。週の半分を愛人宅で過ごし、年末年始もゴールデンウィークも盆休みも愛人宅で過ごすという。
沙織が暮らすアパートを馬鹿にする気はないが、築30年は経っているであろう老朽化の進んだ木造アパートだ。
そのアパートの前を通るたび、沙織はそこで暮らしているというよりは「飼われている」ような気になり、和樹は目を伏せたくなる。
なぜ沙織はそんな男と一緒にいるのかわからない。
俺ならそんな暮らしは絶対にさせない。
―――俺なら……。
自分に呆れてしまう。30手前の男が一人の女に好いた惚れたと、自分の感情に翻弄されている。そんな事はとてもじゃないが誰にも言えない。
それ以前に相手は人妻だ。
気持ちを沙織に伝える事自体、彼女にとっては迷惑な話だろう。既婚者相手に思いを伝える事ほど馬鹿げた話はないと思う。
「俺と不倫してください」
そう言っているのと同じだ。
ただ思う。
なぜ沙織は離婚しないのだろうか。
沙織は身の上を詳しくは語ろうとしない。同様に和樹の身の上を探る事はない。
美樹とマンションで鉢合わせた日の夜も沙織は一切その件には触れてこなかった。
しかし時折、沙織がぽつりぽつりと語る言葉を繋ぎ合わせると、夫は、あまりにも“普通”ではなかった。
最初に沙織と会った日の夜も、沙織は罵声を浴びせられ、アパートを追い出されていた。
ふとあの夜の事を思い出すと沙織は涙を流していた。今の沙織からは想像ができない。
いつも柔らかな笑みを浮かべ、何を話しても、何をしていても笑顔を絶やした日などない。
だが、沙織は今でも暴行を受けている日があるのだろう。立ち上がろうとしたときに「うっ」と顔をしかめ、脇腹を押さえた事もある。頬が心なしか腫れている日もあった。
「どうしたんですか?」と訊ねても、沙織は「ううん。何でもありません」とすぐに笑顔を見せる。
その笑顔は「何も聞かないで」と言っているようで、いつもそれ以上の事は訊けずに言葉を飲み込むしかなかった。
他にも“普通”ではない事がある。
愛人との間に子供が一人いるらしい。週の半分を愛人宅で過ごし、年末年始もゴールデンウィークも盆休みも愛人宅で過ごすという。
沙織が暮らすアパートを馬鹿にする気はないが、築30年は経っているであろう老朽化の進んだ木造アパートだ。
そのアパートの前を通るたび、沙織はそこで暮らしているというよりは「飼われている」ような気になり、和樹は目を伏せたくなる。
なぜ沙織はそんな男と一緒にいるのかわからない。
俺ならそんな暮らしは絶対にさせない。
―――俺なら……。