言い訳~blanc noir~
 そんな事を考えながら車を自宅マンションに向けて走らせていると助手席に置いたバッグの中で携帯電話が鳴っていた。

 赤信号で車を止め、バッグの中から携帯を取り出し画面を確認すると美樹からだった。一瞬このまま無視してしまおうかと思ったが、突然、マンションにやってこられても困る。

 もうすぐ沙織がやってくる時間だ。


「もしもし」


「……椎名さん? 今話せる?」

 久しぶりに和樹の声を耳にした美樹は、涙ぐみそうになる。


「ちょっと待ってね」


 車をコンビニの駐車場に止めた和樹は「運転してたから、ごめんね」と美樹に話しかけた。


「……今、マンションに来てるの。会えない?」


 その言葉に、あからさまに大きなため息を零してしまった。和樹の顔に陰りが広がる。


「悪いけど会うつもりないから」


「少しでいいの」


「何の用事?」


「用事はないけど……。ただ、椎名さんに会いたいの」


 美樹を思い出す事などほとんどないまま3週間が過ぎていた。和樹にとって美樹という存在はとっくの昔に過去のものとなった今「会いたい」と言われる事は負担でしかない。

 腕時計に目を向けた。

 もうすぐ7時になろうとしている。


「美樹ちゃん、ごめん。会う気ないよ。それに俺まだ仕事中なんだ」


「帰って来るまで待ってる」


「……そういうの迷惑だから。じゃあ」


 和樹はそのまま通話終了のボタンを押し、すぐに沙織の番号を呼び出した。


 コール音が3度鳴ったところで沙織と繋がった。


「沙織?」


「お疲れ様です。今から行こうと思ってました」


 沙織の少し鼻にかかった声が耳に心地よかった。


「夕飯の材料、明日に回してもらってもいいですか?」


「あ、残業ですか?」


「いや、違うんだけど。ちょっと事情があって」


 そう言うと何かを察したかのように沙織が「わかりました」と言った。


「じゃあ、明日の夜伺いますね」


「沙織? もし良かったら、今夜はどこか食事に行きませんか?」


 沙織は小さく「え?」と呟いたまま黙り込んでしまった。


 その反応に和樹ははっとした。


―――さすがに人妻が夜、男と食事に出掛けるのはまずいか……。
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