言い訳~blanc noir~
「あ、あのやっぱり結構です。明日の夜、」


「あの私、オシャレな服持ってないけど……ご主人様、恥ずかしくないですか?」


「え?」


 予想外の返事に和樹は戸惑ってしまった。


「私、貧乏人だから。オシャレな服って一枚も持ってないんです」


「服なんて、そんな気にしないでください」


「ご主人様はスーツなのに、私ジャージですよ?」


―――ジャージ?

 瞬間的に学生が着ている体操服を思い浮かべてしまい、和樹は吹き出してしまった。


「沙織、何で今日に限ってジャージなんですか? いつもみたいにデニムじゃないんですか?」


「いつも穿いてるジーパンにクロが毛玉吐いちゃったんです……。もう一本あるんだけど、膝のところが破れてるから恰好が悪くて」


「ジャージでいいですよ」


 和樹が笑うと沙織もつられて笑った。


 そして駅前で待ち合わせをすると、本当に沙織は紺色のジャージ姿で現れた。

 和樹の車を見つけた沙織が満面の笑みを浮かべ、手を振りながら横断歩道を渡る姿があまりにも可笑しくて和樹は笑いを堪えられなかった。


「ご主人様、どうして笑ってるんですか?」


「いや、本当にジャージなんですね」


「だから言ったじゃないですか」


 沙織が和樹の肩をぽんっと叩き口先を尖らせる。


「まだ百貨店開いてるから、服、買いに行きましょう」


「ええっ! いいです、ジャージで! 動きやすいし!」


「そんなに激しく動く事ないですから」


「でも……」


 和樹は沙織の言い分には耳を傾けず車を走らせた。


「今夜は僕好みに仕立てさせてください」


 そう言うと沙織がぽかんとした顔で和樹を見つめた。


「んまぁ……」


 何なんだその反応は―――


 和樹は思わず苦笑いしてしまった。
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