言い訳~blanc noir~
 女は化粧と髪型、そして服装でこんなにも変わるのかと、和樹は心底驚いた。

 着替える前の沙織は紺色のジャージにスニーカー、いつものようにストレートの髪をシュシュで一本に結んだ姿だったせいか、今、和樹の目の前に座る沙織は別人のように思えてしまう。

 黒いスリーピーススーツを身に纏う和樹と紺色のジャージ姿の沙織が百貨店の中を歩いていると、通り過ぎる客やショップ店員たちが不思議そうな顔でこちらに視線を向けていた。

 沙織は気まずそうに俯きながら「やっぱり帰りましょう」と何度も和樹に耳打ちしていたが、和樹は動じる事なく沙織と並んで歩いた。


「ご主人様、私場違い過ぎます……」


「沙織、腕組んでください」


 和樹が沙織の右手を持ち上げ自らの左腕に絡ませると、沙織は驚いたような表情を浮かべていた。そのまま歩き出すと、沙織はぎこちなく和樹に寄り添う。


「何ていうか……私とご主人様、恋人同士みたいですね」


 沙織が俯いたままぼそっと呟いた。


「今夜は僕の恋人という設定でよろしくお願いします」


 和樹の肩ほどしかない背丈の沙織が顔を見上げる。和樹が微笑むと沙織も応えるように微笑した。


「ブルースウィルスみたいですね」


「え? ブルースウィルス?」


「お金持ちのおじさんがコールガールの女の子に……なんだったかな? 知りませんか? 有名な映画なんですけど」


「それプリティウーマンじゃないんですか?」


「そうそう! その映画に出てたブルースウィルスみたいです、ご主人様」


「リチャードギアですよね……?」


 和樹が指摘すると沙織は「あはは」と笑い声をあげ、顔を赤くさせていた。


「じゃあプリティウーマンごっこしましょうか?」


 そして正面のPRADAに沙織と腕を組んだまま足を踏み入れた。


「彼女に合うパンプスを」


 クロの毛並のように艶やかな光沢を放つエナメルのパンプスに足を通すと沙織は不安げに和樹を見上げた。


「ジャージにこれは……」


「変ですね」


 二人の会話を耳にした店員が困ったような笑顔を向けていた。

 そして沙織の履いていたスニーカーと白い靴下を箱に入れてもらい、買ったばかりのパンプスに履き替えた沙織と共に店を後にした。


「好きな洋服のブランドありますか?」


「ブランドわからないんです。でもこういうの可愛いなと思います」


 目の前のショップに掛かっているモスグリーンのワンピースを沙織が指さす。それは胸元が大きく開いているAラインのワンピースだった。

 デザインはシンプルだが上品さが感じられ、30を過ぎた沙織に似合うとは思う。しかしこんなに痩せた体の沙織に胸元が開いたワンピースが合うのか少々疑問だった。


「試着してみますか?」と店員に話し掛けられると、沙織は恥ずかしそうに頷いた。
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