言い訳~blanc noir~
 沙織は一瞬だけ寂しげに目を伏せ、そして、またいつものように笑った。


「こんな話やめましょう! せっかくオシャレなお店でご主人様とデートしてるんだから。私の毎日なんて面白い事何にもないし、ご主人様とご飯を食べてる時が一番楽しいんです」


 なぜか沙織のその言葉に胸が熱くなり言葉が出なかった。

 すると和樹の気持ちを察したのか、明るい口調で沙織が話題を振ってきた。


「私、こんな服装した事がないから恥ずかしいな。おかしくないですか?」


「全然おかしくないですよ。凄く綺麗だと思います」


「お金いっぱい使わせちゃってすみません」


「冬のボーナス出たばかりですから。気にしないでください」


 そう笑ってみせると沙織は「ボーナス!」と声をあげた。


「ボーナスかぁ。やっぱりエリートは違うなぁ」


「エリート? いや、全然エリートなんかじゃないですよ。普通の行員ですから」


「またぁ! だけど銀行マンが彼氏だなんて彼女も鼻が高いでしょうね。ご主人様、格好いいし、優しいし」


「彼女?」


「先日ご主人様と一緒にいたあの綺麗な方、彼女さんでしょ?」


 沙織がフローズンダイキリを飲み干し、にこっと微笑んだ。

 美樹の事を言っているのだろう。


「彼女じゃないですよ」


 和樹はすぐに否定したが、ふと今日美樹から電話があった事を思い出した。携帯電話を取り出し画面を確認するとそこには不在着信や新着メールは届いていなかった。

 あれから3時間近く経過している。

 さすがにもう帰っただろう。

 そう思う気持ちと「もしかしてまだ待っているかもしれない」と思う気持ちが心の中でぶつかり合う。


「ご主人様は嘘つくの下手ですね」


「嘘じゃないです。もう別れたので……」


「え、どうして?」


―――沙織の事が好きだから。


 思わずそう言いかけ、慌てて言葉を飲み込んだ。
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