言い訳~blanc noir~
「振られたんです」


 咄嗟にそんな陳腐な嘘をついてしまった。


「ご主人様ならすぐにまた新しい彼女が出来ますよ」


 沙織が微笑んだ。


―――その言葉、意外ときついですね。


 沙織にそう言いたかったがその言葉もまた強引に飲み込み、無理やり笑顔を作った。


「そろそろ行きましょうか」


「はい」


―――沙織は俺の気持ちに気が付いていないのだろうか。

 ふとそんな事が気になった。






「もうこんな時間ですね。時間大丈夫ですか?」


 車に乗り込み時計を見ると午後11時を過ぎていた。


「大丈夫です。主人はあっちのお家だから」


「……前から思ってたんだけど、ご主人、その、不倫してるって事ですよね? 沙織はそれを認めてるんですか?」


「認めてるというか。愛人との間に子供まで出来ちゃったから仕方ないかなぁって。あちらの方と主人のほうがよっぽど夫婦みたいなんです。私のほうが愛人みたい。あ、でも、愛人だったらまだもう少し大切にされるかな? 私、愛人でも妻でもない、単なる家政婦ですね」


 沙織はあっけらかんと笑った。


「そこまでされたら普通は離婚しそうですけどね」


 和樹はハンドルを握ったままちらっと横目で沙織を見た。が、沙織は何も答えず、外の景色をぼんやりと眺めていた。


「沙織は幸せですか?」



「幸せ? そんな幻みたいなもの私には必要ありませんから」
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