大江戸ロミオ&ジュリエット
「はぁ、『身請』だと……おめぇさん、まだ十五になったばっかで、んな言葉どこで覚えてきゃぁがった。それに、嫁取りたぁ、十年早ぇってのよ。寝惚けてんじゃねぇのか」
源兵衛の濃くて太い眉の片方が、ぴくりと上がった。
「どこぞの女郎に閨で骨抜きにされ、うめぇこと寝物語されて強請られたか、多聞」
ふんっ、と嘲るように嗤う。
「んなことのために、おりゃぁおめぇを吉原へ寄こしたんじゃねぇぜ」
そう云って、源兵衛は忌々しげに莨盆を手元に引き寄せた。
煙管を取り上げ、一番上の抽斗から出した刻み莨を丸めて、雁首の火皿に置き、火入の炭火で焼べた。
そして、深く一服する。気を鎮めるためだった。
だが、どうやらうまく行きそうにない。
肺の腑に含んだ煙は心のうちと同じで、いがいがするだけだ。
多聞は、がばっ、と身を起こした。
「父上、おさよは……さようなおなごではござらんっ」
刻が迫っているのだ。
もういつ見世に出されても無理はない。
早く、あの見世からおさよを救い出さねば。
……我が身しか知らぬ、あのなめらかな肌が、いろんな男たちの一夜の快楽のためだけの慰みものになってしまう。
多聞は気が狂いそうであった。