大江戸ロミオ&ジュリエット
案内された二階の一番奥の座敷は不忍池に面していた。互いにその池がよく見えるよう、膳の台は対面ではなく隣に並んで置かれている。
多聞は腰に手挟んだ大小の刀を引き抜き、腰を下ろした。刀を左側に置く。
それを見て、志鶴も右隣に腰を下ろした。
開け放たれた障子窓から吹き込む、池からのさわやかな風が、暑さで火照った頬に心地よい。
水面いっぱいに広がった蓮の花が、今を盛りに咲き誇っていた。青い空の下、緑の葉の敷物の上に白い花が鮮やかに映える。
冷えた酒と、冷えた麦湯を女中が持ってきた。井戸に吊るして冷やしたものであろうか。
それから女中は、それぞれの膳の台の上に小鉢を置いたあと、下がって行った。
多聞が目の前に置かれた、涼しげなびいどろの酒杯を左手で持ち上げる。
志鶴はびいどろの酒器を両の手で持ち、いつも家でしているように酌をしたが、すぐ隣で座る多聞がひどく近く感じられて、心の臓の音が少し早い。
多聞が注がれた酒を、くうっ、と一呑みした。
よほど喉が渇いておるのか、と志鶴はすぐさま新しい酒を注ごうとした。
すると、多聞の手が伸びてきて、ひょいっ、とびいどろの酒器を奪った。
「おめぇも少し呑みな」
確かに、目の前には冷えた麦湯と共に、びいどろの酒杯も置かれてはいるが、まさかおのれが呑むとは考えられなかった。
「かような昼日中からご酒など、とてもとても呑めませぬ」
志鶴は拒んだ。
だが、多聞はそれを許さず、志鶴の酒杯に酒を注いだ。
仕方なく、志鶴は少し口をつけた。
思いがけずさっぱりした口当たりで「美味しい」と感じた。