大江戸ロミオ&ジュリエット

「み…三月(みつき)近く……」

志鶴が消え入りそうな小声で答えた。
多聞と初めて身体(からだ)をつなげた半月ほど前にあった以来、訪れていなかった。

「うわぁ……しぃちゃん、おめでたく存じまする」

先刻(さっき)まで心配げに眠る志鶴の顔を覗き込んでいた初音が満面の笑みになった。

「『浮世絵与力』と『北町小町』のお子でござりまするもの。さぞかし見目麗しゅうござりましょう」

そして、ぐっと声を殺して、

「なぁんだぁ……しぃちゃんが松波さまと離縁するために実家(さと)に戻ったっていう噂は本当(ほんと)じゃなかったのね」

初音は町家言葉で呟いた。

「初音、過ぎるぞ」

すかさず、父親の玄丞が娘を制した。

「とにかく、これからの出番は医者でなく……産婆だ」

玄丞は志鶴を見据えて告げた。

< 300 / 389 >

この作品をシェア

pagetop